出典:建築物衛生管理技術者試験令和5年度(2023年)|建築物の環境衛生第24問
問題
体温の調節における熱産生と熱放散に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
(1) 基礎代謝とは、睡眠時のエネルギー代謝のことをいう。
(2) 高温環境では発汗や血流量が増加し、代謝量は上昇する。
(3) 熱産生量は人体の活動状況によって異なり、作業量が増せば増加する。
(4) 日本人の基礎代謝は夏の方が冬よりも低い。
(5) 低温の環境では震えによって熱産生量が増加する。
ビル管過去問|体温調節|熱産生・熱放散・基礎代謝と温熱環境の関係を解説
この問題は、体温調節の基本である「熱をつくるしくみ」と「熱を逃がすしくみ」、そして基礎代謝の意味を正しく理解しているかを問う問題です。正答は(1)です。基礎代謝は「睡眠時」ではなく、覚醒して安静にしているときに生命維持のために必要な最小限のエネルギー代謝を指します。(2)(3)(4)(5)は、いずれも体温調節の基本的な考え方に合っています。体温調節の問題では、基礎代謝の定義、暑熱時には放熱が増えること、寒冷時には熱産生が増えることを整理して覚えるのが大切です。
(1) 基礎代謝とは、睡眠時のエネルギー代謝のことをいう。
不適切です。基礎代謝とは、心臓を動かす、呼吸をする、体温を保つなど、生命を維持するために最低限必要なエネルギー代謝のことです。ただし、その測定条件は「覚醒していて、安静にしており、空腹で、快適な温熱環境にある状態」が基本です。つまり、眠っているときの代謝そのものを指すわけではありません。睡眠中の代謝は基礎代謝よりさらに低下することがあり、両者は同じ意味ではありません。この選択肢は、「安静時」と「睡眠時」を混同させる典型的なひっかけです。基礎代謝は、じっとしていれば何でもよいのではなく、決められた条件のもとで測られる生理学上の用語だと理解しておくことが重要です。
(2) 高温環境では発汗や血流量が増加し、代謝量は上昇する。
適切です。高温環境では、人体は体内にこもった熱を外へ逃がそうとします。そのため、汗をかいて気化熱により熱を放散し、さらに皮膚の血管を拡張させて皮膚血流量を増やし、体の深部の熱を体表へ運びます。これらの反応は体温調節のために起こるものであり、身体に一定の生理的負担を与えます。その結果、代謝量が増加する方向に働きます。ただし、ここで大事なのは、高温環境では「熱産生を積極的に増やす」のではなく、「放熱を増やすための生理反応が活発になる」という点です。暑いときの基本は発汗と皮膚血流の増加であると押さえておくと、温熱環境の問題に対応しやすくなります。
(3) 熱産生量は人体の活動状況によって異なり、作業量が増せば増加する。
適切です。人体の熱は、主として代謝活動によって生じます。安静時よりも歩行時、歩行時よりも重い作業時のほうが筋肉活動が増えるため、エネルギー消費量が増え、それに伴って熱産生量も増加します。つまり、作業量が増えるほど体内でつくられる熱も多くなるということです。これは温熱環境を考えるうえで非常に重要です。たとえば同じ室温であっても、座っている人と重作業をしている人では快適さが異なります。作業強度が高い人ほど熱を多く産生するため、より低めの温度や十分な換気が必要になることがあります。温熱環境は、室温だけで決まるのではなく、人の活動量とも深く関係しているのです。
(4) 日本人の基礎代謝は夏の方が冬よりも低い。
適切です。一般に、日本人の基礎代謝は冬に高く、夏に低い傾向があるとされています。冬は寒冷に対応して体温を維持する必要があるため、エネルギー代謝が高まりやすくなります。反対に、夏は外気温が高く、体温維持のための熱産生をそれほど必要としないため、基礎代謝は低くなる傾向があります。この季節差は、人体が環境に適応する生理的な変化の一つです。試験では、「冬のほうが基礎代謝は高い」という形で問われることが多いため、夏と冬を逆にしないよう注意が必要です。
(5) 低温の環境では震えによって熱産生量が増加する。
適切です。寒い環境では、体温の低下を防ぐために熱産生を増やす反応が起こります。その代表が「震え」です。震えとは、骨格筋が細かく不随意に収縮を繰り返す現象で、この筋活動によって熱がつくられます。これをふるえ産熱といいます。寒冷時には、まず皮膚血管を収縮させて熱の放散を減らし、それでも足りない場合には震えによって熱産生を増やします。つまり、寒いときには「熱を逃がさない」と「熱をつくる」の両方が働きます。体温調節では、暑いときは放熱促進、寒いときは放熱抑制と熱産生増加、という対比で覚えると整理しやすいです。
この問題で覚えるポイント
体温調節では、熱産生と熱放散の両方をセットで理解することが重要です。熱産生は主に代謝によって生じ、筋肉活動が増えるほど大きくなります。安静時より作業時、軽作業より重作業のほうが熱産生量は増加します。寒冷時には、皮膚血管を収縮させて熱の放散を抑え、さらに震えによって熱産生を増やして体温を維持します。これに対して高温時には、発汗と皮膚血流増加によって熱放散を促進します。 基礎代謝は、生命維持のために必要な最小限のエネルギー代謝であり、覚醒安静時、空腹時、快適な温熱環境という条件で測定されます。睡眠時代謝とは同じではありません。ここは頻出なので、「基礎代謝=睡眠時」ではなく、「基礎代謝=覚醒して安静にしているときの最小限の代謝」と正確に覚えることが大切です。 また、基礎代謝には季節差があり、一般に冬のほうが高く、夏のほうが低いとされます。温熱環境の問題では、室温や湿度だけでなく、活動量、着衣量、気流、放射の影響もあわせて考える必要があります。つまり、人の快適性や体温調節は、単に暑い寒いの感覚だけでなく、体がどれだけ熱をつくり、どれだけ熱を逃がしているかで決まるということです。
ひっかけポイント
この問題の最大のひっかけは、「安静時」と「睡眠時」を入れ替えている点です。受験者は「じっとしているなら同じようなもの」と考えてしまいがちですが、生理学では基礎代謝は厳密に定義されています。言葉の雰囲気が似ているために、正確な定義を覚えていないと誤答しやすいところです。 また、高温環境では「熱を逃がす反応」が中心であるにもかかわらず、「代謝量が上昇する」という表現を見ると違和感を覚えて誤りだと思ってしまうことがあります。しかし実際には、発汗や循環調節にもエネルギーが必要であり、全体として代謝量が増加する方向に働きます。このように、一部だけを見ると誤りに見えても、人体の調節反応全体で考えると正しい文章になることがあります。 さらに、季節による基礎代謝の変化も逆に覚えやすい部分です。夏は暑いから体がたくさん働いて代謝が高そうだ、と日常感覚で考えると誤りやすくなります。試験では、日常感覚ではなく、生理学的に「体温維持の必要性が高い冬に基礎代謝が高い」と整理して覚えることが大切です。こうした問題では、感覚ではなく定義と仕組みで判断する意識が得点につながります。
