【ビル管過去問】令和4年度 問題179|建築物衛生法 ねずみ・昆虫等の防除 IPMと水準値の考え方を解説

出典:建築物衛生管理技術者試験令和4年度(2022年)|ねずみ、昆虫等の防除第179問

問題

建築物衛生法に基づく特定建築物内のねずみ・昆虫等の防除に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。 トラップによる生息状況調査により複数の害虫種が捕集された場合、それぞれの種類の生息密度が「許容水準」に該当する場合でも「警戒水準」にあると判断する。 ねずみ・昆虫等に対する不快感も、健康被害の一つである。 調査では、発生状況や被害状況に関する聞き取り調査を重点的に実施する。 防除は、ベクターコントロールとニューサンスコントロールという二つの異なる側面をもつ。 建築物における維持管理マニュアルのIPM実施モデルに示す水準値は、現場の使用用途などの状況に応じた個別水準値を設定することも可能である。

(1) トラップによる生息状況調査により複数の害虫種が捕集された場合、それぞれの種類の生息密度が「許容水準」に該当する場合でも「警戒水準」にあると判断する。

(2) ねずみ・昆虫等に対する不快感も、健康被害の一つである。

(3) 調査では、発生状況や被害状況に関する聞き取り調査を重点的に実施する。

(4) 防除は、ベクターコントロールとニューサンスコントロールという二つの異なる側面をもつ。

(5) 建築物における維持管理マニュアルのIPM実施モデルに示す水準値は、現場の使用用途などの状況に応じた個別水準値を設定することも可能である。

ビル管過去問|建築物衛生法におけるねずみ・昆虫等防除とIPMの水準値を解説

この問題は、建築物衛生法に基づく特定建築物内でのねずみ・昆虫等の防除について、IPM(総合的有害生物管理)の考え方や、水準値の運用、防除の目的、調査の進め方を正しく理解しているかを問う問題です。最も不適当なのは、複数種の害虫が捕集された場合の水準の判断に関する記述で、許容水準と警戒水準の考え方を誤っています。その他の選択肢は、ねずみ・昆虫等に対する不快感も健康被害として扱うこと、聞き取り調査の重要性、防除の二つの側面、IPM実施モデルの水準値を現場に応じて調整できることなど、いずれも建築物衛生管理の基本的な考え方として正しい内容です。

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(1) トラップによる生息状況調査により複数の害虫種が捕集された場合、それぞれの種類の生息密度が「許容水準」に該当する場合でも「警戒水準」にあると判断する。

不適切です。IPMでは、害虫ごとに許容水準、警戒水準、措置水準といった水準値を設定し、その水準に応じて対応を決めます。許容水準は「現状は良好で、通常の調査と維持管理を継続する段階」、警戒水準は「放置すると問題化するおそれがあり、環境整備などの見直しが必要な段階」といった位置づけです。トラップ調査で複数種が捕集されたとしても、それぞれの種の生息密度が許容水準内であれば、全体としても許容水準と判断するのが原則であり、自動的に警戒水準とみなすことはありません。したがって、この記述は水準値の定義と運用を誤っており、不適切となります。

(2) ねずみ・昆虫等に対する不快感も、健康被害の一つである。

適切です。建築物衛生法に基づく建築物環境衛生管理基準では、人の健康の保持増進とともに、快適な環境の確保も目的とされています。ねずみやゴキブリ、ハエなどの存在は、感染症やアレルギーといった直接的な健康被害だけでなく、見た目の嫌悪感や心理的な不安、ストレスを通じて、広い意味で健康に悪影響を及ぼします。このような不快感も健康被害の一部として捉え、防除の対象とするという考え方は、建築物衛生管理の基本に沿ったものです。そのため、この記述は適切です。

(3) 調査では、発生状況や被害状況に関する聞き取り調査を重点的に実施する。

適切です。ねずみ・昆虫等の防除では、トラップ調査や目視点検などの物理的な調査に加えて、建物の利用者や管理者からの聞き取りが非常に重要です。実際にねずみや害虫を見かけた場所や時間帯、被害の内容(かじり跡、糞、臭い、不快感など)は、トラップだけでは把握しきれない情報を補ってくれます。IPMでは、こうした聞き取り情報を含めて総合的に生息状況を評価し、目標水準や防除方針を決定します。そのため、発生状況や被害状況に関する聞き取り調査を重点的に実施するという記述は、実務的にも試験的にも適切です。

(4) 防除は、ベクターコントロールとニューサンスコントロールという二つの異なる側面をもつ。

適切です。ねずみ・昆虫等の防除には、大きく二つの側面があります。一つは、感染症を媒介する蚊やゴキブリ、ねずみなどを対象としたベクターコントロールで、病原体の伝播を防ぎ、人の健康被害を直接的に防止することを目的とします。もう一つは、大量発生や目撃による不快感、心理的ストレス、建物のイメージ低下などを防ぐニューサンスコントロールで、快適性や安心感の確保が主な目的です。建築物におけるねずみ・昆虫等対策は、この二つの側面を併せ持つものであり、この記述はその考え方を正しく表しています。

(5) 建築物における維持管理マニュアルのIPM実施モデルに示す水準値は、現場の使用用途などの状況に応じた個別水準値を設定することも可能である。

適切です。厚生労働省の維持管理マニュアルに示されるIPM実施モデルでは、許容水準、警戒水準、措置水準などの水準値が例示されていますが、これらはあくまで標準的な目安です。実際の建築物では、用途(病院、学校、オフィス、飲食店など)、利用者の属性、衛生要求水準、過去の発生状況などに応じて、より厳しい水準や、現実的な範囲での水準を個別に設定することが想定されています。したがって、現場の使用用途などの状況に応じて個別水準値を設定できるという記述は、IPMの考え方に沿った適切な内容です。

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この問題で覚えるポイント

ねずみ・昆虫等の防除では、まずIPM(総合的有害生物管理)の基本概念をしっかり押さえることが重要です。IPMは、薬剤散布に安易に依存せず、生息調査、環境整備、物理的防除、必要最小限の薬剤使用などを組み合わせて、人の健康へのリスクと環境負荷を最小限にしながら、有害生物をあらかじめ設定した目標水準以下に制御し、その状態を維持する考え方です。ここでいう目標水準には、許容水準、警戒水準、措置水準などがあり、許容水準は「現状維持でよい良好な状態」、警戒水準は「放置すると問題化するおそれがあり、環境整備などの見直しが必要な状態」、措置水準は「発生や目撃が多く、早急な防除措置が必要な状態」と整理して覚えると、正誤判断に直結します。また、防除の目的には、感染症などの健康被害を防ぐベクターコントロールと、不快感や心理的ストレスを抑えるニューサンスコントロールの二面があることも頻出です。さらに、維持管理マニュアルに示される水準値は絶対的な数値ではなく、建物の用途や利用者の特性に応じて個別に調整可能な目安である点も重要です。これらを押さえておくと、同テーマの問題にも柔軟に対応できるようになります。

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ひっかけポイント

この問題のひっかけは、複数種の害虫が捕集された場合の判断を、感覚的な不安と結びつけて誤らせようとしている点にあります。複数種が捕れていると「何か大きな問題がありそうだ」と感じやすく、たとえ各種の生息密度が許容水準内でも、全体として警戒水準と考えてしまう受験者がいます。しかし、IPMではあくまで水準値は種ごとに設定され、許容水準であれば許容水準として扱うのが原則です。このように、「数が多い」「種類が多い」といった印象に引きずられて、本来の定義や運用を忘れてしまうのが典型的な思考の罠です。また、他の記述はどれも一見すると当たり前の内容で、逆に「簡単すぎて怪しい」と感じて疑ってしまうことがありますが、建築物衛生法やIPMの基本を正しく理解していれば、そのまま正しいと判断できます。同じパターンの問題では、印象や不安ではなく、水準値の定義、防除の目的、マニュアルの位置づけといった「決めごと」に立ち返って考えることで、落ち着いて正答にたどり着けるようになります。

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