出典:第一種衛生管理者2022年(令和4年度)10月公表問題|労働衛生(有害業務に係るもの)第16問
問題
化学物質による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1) 一酸化炭素は、赤血球中のヘモグロビンと強く結合し、体内組織の酸素欠乏状態を起こす。
(2) シアン化水素による中毒では、細胞内での酸素利用の障害による呼吸困難、けいれんなどがみられる。
(3) 硫化水素による中毒では、意識消失、呼吸麻痺(ひ)などがみられる。
(4) 塩化ビニルによる慢性中毒では、慢性気管支炎、歯牙酸蝕(しょく)症などがみられる。
(5) 弗(ふっ)化水素による慢性中毒では、骨の硬化、斑状歯などがみられる。
第1種衛生管理者|化学物質中毒と健康障害・慢性中毒の基礎知識を解説
化学物質による健康障害では、物質ごとに障害を起こす仕組みと代表的な症状を対応させて覚えることが重要です。答えは(4)です。塩化ビニルによる慢性中毒では、肝障害、肝血管肉腫、レイノー現象、指端骨溶解などが問題となり、慢性気管支炎や歯牙酸蝕症は代表的な健康障害ではありません。慢性気管支炎や歯牙酸蝕症は、主に刺激性ガスや酸性物質などとの関係で整理する内容です。
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(1) 一酸化炭素は、赤血球中のヘモグロビンと強く結合し、体内組織の酸素欠乏状態を起こす。
適切です。一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンと非常に強く結合し、カルボキシヘモグロビンを形成します。ヘモグロビンは本来、肺で酸素と結合して全身の組織へ酸素を運ぶ役割を持っています。しかし、一酸化炭素がヘモグロビンと結合すると、酸素が結合できる場所が奪われ、全身に十分な酸素を運べなくなります。その結果、頭痛、めまい、吐き気、意識障害などが起こり、重症では死亡することもあります。血液中の酸素運搬能力が低下することが本質です。
(2) シアン化水素による中毒では、細胞内での酸素利用の障害による呼吸困難、けいれんなどがみられる。
適切です。シアン化水素は、血液中に酸素があっても、細胞がその酸素を利用できなくする物質です。細胞内では、ミトコンドリアが酸素を使ってエネルギーを作っていますが、シアン化水素はこの働きを阻害します。そのため、体内に酸素が存在していても、細胞レベルでは酸素不足のような状態になります。これにより、呼吸困難、けいれん、意識障害などが起こります。一酸化炭素が「酸素を運べない」障害であるのに対し、シアン化水素は「酸素を使えない」障害として整理すると理解しやすいです。
(3) 硫化水素による中毒では、意識消失、呼吸麻痺(ひ)などがみられる。
適切です。硫化水素は、腐卵臭のある有毒ガスとして知られていますが、高濃度では嗅覚が麻痺するため、においに気づかないまま危険な状態になることがあります。硫化水素は中枢神経や呼吸中枢に強い影響を与え、高濃度ばく露では急激に意識を失い、呼吸麻痺を起こすことがあります。下水処理施設、汚泥、マンホール、ピットなど酸素欠乏危険場所に関連して出題されることも多いため、急性中毒の代表例として押さえておくとよいです。
(4) 塩化ビニルによる慢性中毒では、慢性気管支炎、歯牙酸蝕(しょく)症などがみられる。
不適切です。塩化ビニルによる慢性中毒で重要なのは、肝障害、肝血管肉腫、レイノー現象、指端骨溶解などです。塩化ビニルはポリ塩化ビニルの原料として用いられる物質で、長期ばく露により肝臓への障害や発がん性が問題になります。特に肝血管肉腫は、塩化ビニルとの関連でよく問われる代表的な疾病です。慢性気管支炎は刺激性の粉じんやガスなどで問題になることがあり、歯牙酸蝕症は酸性物質によって歯が侵される障害として整理します。塩化ビニルの代表的障害として、慢性気管支炎や歯牙酸蝕症を結びつけるのは誤りです。
(5) 弗(ふっ)化水素による慢性中毒では、骨の硬化、斑状歯などがみられる。
適切です。弗化水素や弗化物による慢性中毒では、体内に取り込まれた弗素が骨や歯に影響を及ぼします。代表的な健康障害として、骨の硬化や斑状歯があります。斑状歯とは、歯に白濁や褐色の変色などが生じる状態です。弗素は少量では歯の健康に関係することもありますが、過剰に取り込まれると骨や歯に異常を生じます。試験では、弗化水素は「骨の硬化」「斑状歯」とセットで覚えると正誤判断がしやすくなります。
この問題で覚えるポイント
化学物質による中毒では、物質名と代表的な健康障害を組み合わせて覚えることが重要です。一酸化炭素はヘモグロビンと強く結合して酸素運搬を妨げ、体内組織の酸素欠乏を起こします。シアン化水素は細胞内で酸素を利用する仕組みを阻害し、血液中に酸素があっても細胞が酸素を使えない状態を起こします。硫化水素は高濃度ばく露で意識消失や呼吸麻痺を起こす急性中毒が重要です。塩化ビニルは慢性中毒として肝障害、肝血管肉腫、レイノー現象、指端骨溶解が代表的です。弗化水素は骨の硬化、斑状歯と結びつけて覚えます。正誤判断では、「酸素を運べない一酸化炭素」「酸素を使えないシアン化水素」「急性で意識消失・呼吸麻痺の硫化水素」「肝障害・肝血管肉腫の塩化ビニル」「骨・歯に出る弗化水素」という対応関係を押さえることが大切です。
ひっかけポイント
この問題のひっかけは、化学物質名と健康障害の組合せを少しだけ入れ替えている点です。選択肢の文章はどれも専門用語が含まれているため、雰囲気だけで読むとすべて正しそうに見えます。特に塩化ビニルは「ビニル」という身近な印象から、呼吸器の障害を連想してしまうことがありますが、試験上は肝障害や肝血管肉腫が中心です。また、慢性気管支炎や歯牙酸蝕症という言葉自体は実在する健康障害なので、「病名が正しいから文章も正しい」と判断してしまうのが典型的な罠です。化学物質の問題では、病名が正しいかどうかではなく、「その物質に特有の障害として正しく結びついているか」を確認することが大切です。
