【ビル管過去問】令和5年度 問題50|熱放射|放射率・吸収率・赤外線・放射熱伝達の基礎を解説

出典:建築物衛生管理技術者試験令和5年度(2023年)|空気環境の調整第50問

問題

熱放射に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。

(1) 同一温度の物体間での放射に関し、物体の放射率と吸収率は等しい。

(2) 物体表面の太陽放射の吸収率(日射吸収率)は、必ずしも放射率と等しくならない。

(3) 簡略化した放射熱伝達式では、放射熱伝達率が用いられる。

(4) 常温物体から射出される電磁波は、波長が10μm付近の赤外線が主体である。

(5) 温度が0°Cの固体表面は、放射率に関わらず熱放射していない。

ビル管過去問|熱放射|放射率・吸収率・赤外線・放射熱伝達の基礎を解説を解説

この問題は、熱放射の基本である放射率、吸収率、放射熱伝達、そして常温物体が出す赤外線の性質を理解しているかを問う問題です。熱放射は、空気がなくても伝わる熱の移動であり、建築環境工学では壁、窓、天井、人体まわりの熱のやり取りを考えるうえで重要です。正しい内容は、同一温度条件での放射率と吸収率の関係、日射吸収率と放射率は必ずしも一致しないこと、簡略式で放射熱伝達率を用いること、常温物体は10μm付近の赤外線を主に放射することです。不適当なのは、0°Cの物体は熱放射していないとする記述です。絶対零度でない限り、物体は温度を持つかぎり熱放射しています。

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(1) 同一温度の物体間での放射に関し、物体の放射率と吸収率は等しい。

適切です。その理由は、これはキルヒホッフの法則に基づく内容だからです。熱平衡にある条件、すなわち同一温度で放射のやり取りをしている場合、ある波長における放射率と吸収率は等しくなります。わかりやすくいえば、よく放射する性質をもつ面は、同じ条件ではよく吸収する面でもあるということです。建築分野では、壁面や材料表面の熱のやり取りを考える際に、この考え方が基礎になります。なお、この関係は同一温度での熱平衡という条件が大切であり、条件を外すと単純には言えない点に注意が必要です。

(2) 物体表面の太陽放射の吸収率(日射吸収率)は、必ずしも放射率と等しくならない。

適切です。その理由は、太陽放射と常温物体からの熱放射では、主な波長域が異なるからです。太陽放射は主に短波長側の放射であり、可視光や近赤外が中心です。一方で、建物表面や人体のような常温物体からの熱放射は、主に長波長の赤外線です。材料の表面は、波長によって吸収や放射のしやすさが変わるため、太陽光をどれだけ吸収するかという日射吸収率と、常温域での熱放射のしやすさを示す放射率は、必ずしも同じになりません。たとえば、日射をよく反射して熱くなりにくい表面でも、長波長の熱放射は出しやすい場合があります。この区別は、屋根や外壁の熱負荷を考えるうえでとても重要です。

(3) 簡略化した放射熱伝達式では、放射熱伝達率が用いられる。

適切です。その理由は、放射による熱移動は本来、絶対温度の4乗に比例するステファン・ボルツマンの法則で表されますが、そのままでは計算が複雑になるためです。実務や基礎計算では、ある温度範囲で近似して、対流熱伝達と同じような形で扱える放射熱伝達率を用いることがあります。つまり、熱流量を温度差に比例する形で表し直し、計算しやすくするのです。建築設備や熱負荷計算では、このような簡略化は非常によく使われます。難しく見えても、放射を温度差で扱いやすくした便利な考え方だと理解すると整理しやすいです。

(4) 常温物体から射出される電磁波は、波長が10μm付近の赤外線が主体である。

適切です。その理由は、常温付近の物体が放射する熱放射のピーク波長は、ウィーンの変位則からおおよそ10μm前後になるからです。たとえば、室温20~30°C程度の物体は、可視光ではなく、主として長波長の赤外線を放射しています。人の目には見えませんが、建物の壁、床、天井、人体などは常にこの赤外線を出しています。冬に窓の近くで寒く感じることがあるのも、周囲との放射のやり取りが関係しています。この知識は、放射暖房や表面温度の問題を理解する際にも役立ちます。

(5) 温度が0°Cの固体表面は、放射率に関わらず熱放射していない。

不適切です。その理由は、0°Cは絶対零度ではないからです。摂氏0°Cは絶対温度で273.15Kであり、この温度をもつ物体は十分に熱放射をしています。熱放射が完全になくなるのは、理論上、絶対零度である0Kのときです。日常では0°Cというと冷たいので、放射していないように感じるかもしれませんが、実際には周囲に向かって赤外線を放射しています。ただし、周囲からも放射を受けているため、正味の熱移動は相手との温度差で決まります。この選択肢は、0°Cと0Kを混同させる典型的な誤りです。

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この問題で覚えるポイント

熱放射とは、物体が電磁波としてエネルギーを放出する現象であり、空気がなくても伝わる熱の移動です。対流や伝導と異なり、真空中でも起こるのが大きな特徴です。物体は絶対零度より高い温度であれば、必ず熱放射を行います。摂氏0°Cでも放射はあります。放射が完全になくなるのは理論上の絶対零度だけです。 放射率とは、その物体が黒体に比べてどれだけ熱放射しやすいかを表す割合です。0から1の値をとり、値が大きいほど放射しやすい表面です。熱平衡にある同一温度条件では、放射率と吸収率は等しいというキルヒホッフの法則が成り立ちます。ここでは、同一温度や熱平衡という条件が重要です。 太陽放射の吸収率である日射吸収率と、常温物体の熱放射に関する放射率は、同じとは限りません。これは対象となる波長域が違うためです。太陽放射は短波長、建物や人体の熱放射は長波長赤外線が中心です。したがって、材料の表面性能は波長依存性を持つことを理解しておく必要があります。 常温物体の放射は、主に10μm付近の赤外線です。可視光ではないため目には見えませんが、熱画像装置などで捉えられるのはこの赤外線です。試験では、太陽放射は短波、常温物体の熱放射は長波という対比がよく問われます。 放射による熱流は本来、絶対温度の4乗差で表されますが、建築環境工学では計算しやすくするため、放射熱伝達率を使って温度差に比例する形へ簡略化することがあります。この考え方は、壁面、窓、人体周囲の熱環境を扱うときに重要です。

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ひっかけポイント

この問題で最も引っかかりやすいのは、0°Cなら熱放射していないと思い込んでしまうことです。日常感覚では0°Cはかなり冷たい温度なので、熱を出していないように感じますが、熱放射は絶対温度で考えます。摂氏温度と絶対温度を混同すると誤答しやすくなります。 また、吸収率と放射率は常に等しいと丸暗記していると危険です。これは同一温度の熱平衡条件での関係であり、さらに太陽放射のような短波長域の吸収率までそのまま同じと考えると間違えます。波長域が異なると、表面の性質も異なることがあるためです。 さらに、放射熱伝達率という言葉を見て、伝導や対流の係数と混同してしまうこともあります。実際には、放射を扱いやすくするための近似的な係数であり、元は4乗則に基づく現象です。一見すると細かい知識ですが、式の意味を押さえておくと迷いにくくなります。 試験では、このように一部だけ正しい文章に、条件の抜けや温度尺度の混同を入れて誤答を誘うことがよくあります。用語を単独で覚えるのではなく、どの条件で成り立つのか、何と何を比べているのかまで意識して学習すると、同テーマの応用問題にも対応しやすくなります。

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