出典:建築物衛生管理技術者試験令和5年度(2023年)|建築物の構造概論第97問
問題
建築物の電気設備に関する次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。
(1) 実効値100Vの交流電圧は、ピーク時の電圧が約140Vである。
(2) 受変電設備の変圧器容量は、建築物内部の電気設備の負荷の合計値以上とするのが一般的である。
(3) 電線の配電距離が長くなると、電圧の低下を招く。
(4) 磁束密度は、電流の強さとコイルの巻き数との積に比例する。
(5) 建築物の設備機械の動力は、三相誘導電動機を多く利用している。
ビル管過去問|建築物の電気設備|交流電圧・受変電設備・電圧降下・三相誘導電動機を解説
この問題は、建築物の電気設備に関する基本事項を問う問題です。交流電圧の実効値と最大値の関係、受変電設備の変圧器容量の考え方、配線による電圧降下、電磁気の基礎、三相誘導電動機の用途といった、電気設備の初歩として重要な知識がまとめて確認されています。正解は(2)です。(1)(3)(4)(5)は適切な記述であり、(2)は「負荷の合計値以上とするのが一般的」という部分が不適当です。実際には、すべての負荷が同時に最大で運転するとは限らないため、需要率や負荷率などを考慮して変圧器容量を決めるのが一般的です。
(1) 実効値100Vの交流電圧は、ピーク時の電圧が約140Vである。
適切です。交流電圧の実効値は、同じ大きさの仕事をする直流電圧に換算した値です。正弦波交流では、最大値は実効値の約1.414倍になります。したがって、実効値100Vの交流電圧のピーク時電圧は、100×1.414で約141Vとなります。選択肢では「約140V」としており、おおむね正しい表現です。家庭用コンセントの100Vは常に100Vの直流が流れているわけではなく、時間とともに電圧が上下する交流であり、その実効値が100Vであるという点を押さえることが大切です。
(2) 受変電設備の変圧器容量は、建築物内部の電気設備の負荷の合計値以上とするのが一般的である。
不適切です。変圧器容量を決めるときは、建築物内のすべての電気設備が同時に最大負荷で運転するとは限らないことを踏まえて検討します。そのため、実際には接続される負荷の単純合計だけで決めるのではなく、需要率、不等率、負荷の使用実態、将来の増設余裕などを考慮して容量を設定します。もし常に負荷の合計値以上とする考え方だけで設計すると、必要以上に大きな変圧器を選定することになり、設備費や運転効率の面で不合理になることがあります。この選択肢は、「すべての負荷を単純に足した値がそのまま必要容量になる」と思わせる点が誤りです。
(3) 電線の配電距離が長くなると、電圧の低下を招く。
適切です。電線には電気抵抗があるため、電流が流れると配線中で電圧降下が生じます。配電距離が長くなれば、その分だけ電線の抵抗成分が大きくなり、末端で使える電圧が低下しやすくなります。これを電圧降下といいます。電圧降下が大きいと、照明が暗くなったり、電動機の性能が低下したり、機器の正常な運転に支障が出るおそれがあります。そのため、実務では配線距離、電流値、電線の太さなどを考慮して、許容範囲内に収まるよう設計します。建築設備では単に電気が届けばよいのではなく、必要な電圧を確保して機器を安定運転させることが重要です。
(4) 磁束密度は、電流の強さとコイルの巻き数との積に比例する。
適切です。コイルに電流を流すと磁界が発生し、その強さは一般に電流の大きさと巻き数が増えるほど大きくなります。電磁石の基本原理としてもよく知られており、アンペア回数と呼ばれる「電流×巻き数」が磁化の程度を左右する重要な要素です。もちろん実際には鉄心の材質や磁路の長さ、形状などの条件にも影響を受けますが、基礎的な説明としてはこの記述で適切です。電気設備では変圧器や電動機など、磁気を利用する機器が多いため、この考え方は基本知識として押さえておきたいところです。
(5) 建築物の設備機械の動力は、三相誘導電動機を多く利用している。
適切です。建築物の設備機械には、ポンプ、送風機、冷凍機、空調機など多くの回転機械があります。これらの動力源としては、構造が比較的簡単で堅牢であり、保守しやすく、効率もよい三相誘導電動機が広く使われています。三相電源は単相電源よりも回転機械の運転に適しており、始動性や運転の安定性にも優れています。そのため、建築設備分野では三相誘導電動機が代表的な動力機器となっています。設備管理の現場でも非常に身近な機器なので、頻出知識として確実に覚えておきたい内容です。
この問題で覚えるポイント
交流電圧では、普段表示される100Vや200Vは実効値であり、正弦波交流の最大値は実効値の約1.414倍になります。したがって、100V交流の最大値は約141V、200V交流の最大値は約283Vです。この関係は計算問題だけでなく、知識問題としてもよく問われます。 受変電設備の変圧器容量は、接続負荷の単純合計で決めるのではなく、需要率や不等率、実際の運転状況、将来余裕などを考慮して決めます。ここでは「負荷合計そのままではない」という設計上の考え方が重要です。設備設計では、安全側に見ることと、過大設計を避けることの両方が求められます。 電圧降下は、電線に抵抗があるために生じます。配線距離が長いほど、また流れる電流が大きいほど電圧降下は大きくなります。そのため、遠くまで送る回路では電線を太くするなどの対策が必要になります。電圧降下は照明、動力、制御機器の不具合にもつながるため、実務上も重要です。 磁気回路の基礎では、コイルによる磁界の強さは電流と巻き数に関係します。変圧器や電動機は、この電気と磁気の関係を利用した代表的な装置です。細かな式をすべて覚えなくても、電流が増えるほど、巻き数が増えるほど磁気作用が強まるという基本を押さえておくと、正誤判断しやすくなります。 建築設備の動力用電動機としては三相誘導電動機が代表的です。単相電動機との違いとして、三相誘導電動機は大容量機器に向き、効率がよく、構造が比較的簡単で、ポンプやファンなどの連続運転機器に多く用いられます。この比較は空調設備や給排水設備の問題にもつながります。
ひっかけポイント
この問題のひっかけは、「一般的」という言葉で受験者の感覚をずらしてくる点にあります。変圧器容量は大きいほど安全そうに見えるため、負荷の合計値以上とするのが当然だと感じてしまいやすいです。しかし実際の設備設計では、すべての機器が常時フル運転するわけではないため、需要率などを見込んで合理的に容量を決めます。日常感覚の「余裕をたくさん見たほうが安全」という考えを、そのまま専門分野に当てはめると誤りやすい典型です。 また、交流100Vとピーク電圧の関係も、普段の感覚では見えにくいので混乱しやすいところです。100Vと聞くと最大でも100V程度と思い込みがちですが、実効値と最大値は異なります。数値が少しずれるだけで誤答しやすいため、100×1.414という基本関係を定着させることが大切です。 さらに、磁束密度と電流や巻き数の関係は、厳密な物理式を知らないと不安になりやすい分野です。その不安を利用して、正しい基礎表現を誤りと感じさせるのもよくある出題パターンです。まずは「コイルの電流が強いほど、巻き数が多いほど磁気作用は強くなる」という土台をしっかり持っておくと、細かな式に惑わされにくくなります。 全体として、この種の問題は「何となくそれっぽい」選択肢ではなく、「設計上の考え方として本当に一般的か」「用語の意味が正確か」を見抜けるかどうかが勝負になります。表面的な印象ではなく、原理と実務の両面から判断する意識を持つことが得点につながります。
